先生たちの悲鳴と喜び

学校現場の先生たちの過酷な実態が、近年知られるようになっています。数年前は、マスコミに登場するコメンテーターも無知からなのか、局の方針なのかわかりませんが、先生たちに何か問題があると単純に先生たちが間違いなのだと、その非を一方的に責めていたように思います。聞くに堪えない貧困な批判精神であると胸が痛みました。しかし、最近は尾木ママ先生や池上彰氏など現場を知る人々によって、実は大多数の先生方が過酷な仕事環境であるにもかかわらず、熱心な教育活動をされていることが発信されて先生たちに対してやや客観的味方の報道が増えてきました。

 

勿論、公立と私学。都会と地方。また人気、規模等で学校間格差がありますし、同じ学校でも文化部と運動部の顧問。主要五教科と他教科の違い、さらに委員会等の校務分掌でも先生たちの仕事環境は異なります。しかし、総じて裁量労働制的働き方の名のもと、ほとんど休養もとれず、一番大切な授業の準備、教科研究に十分な時間が取れていないのが現実です。とはいえ、良心的な先生なら授業の質を上げたいと思いますから、本来休養すべき時間、曜日にその準備を行います。

その結果、過労死、精神疾患のリスクが絶えず先生たちを覆っているのはすでに報道されているとおりです。

ー小学校・中学校とも、1週間あたりの平均勤務時間は小学校教諭が57時間25分、中学校教諭が63時間18分。先生方の1週間当たりの正規の勤務時間38時間45分ですので、小学校教諭は19時間40分、中学校教諭は25時間33分が1週間当たりの平均残業時間。中学校教諭は国が示す「過労死ライン」に達する週20時間以上の残業。小学校も副校長や教頭は過労死ラインを越える。ー

その現状に対して、ようやく文科省が先生たちの長時間労働是正制度導入を決めました。あまりにも遅すぎですが、改革の第一歩です。具体的には先生たちの事務作業補助スタッフをパートで雇う予算14億9000万円を計上したのです。その予算で3600人補助スタッフが大規模校を中心に配置されるとのことです。

しかし、全国の公立校は約3万校。つまりほとんどの学校現場は変わらないということです。これからの予算確保が課題になります。また、クラブ活動の在り方など根本的な問題もあります。中体連、高体連の試合設定日は土日です。顧問になってしまうと先生たちに土日はなくなります。勝ち続けると毎週です。年度末に次年度のクラブ顧問が決まりますが、好きでやりたいと自薦する人以外は、試合の多い運動部の顧問に手を挙げる先生たちは厳しい選択を迫られるのです。ある学校では、発言しにくい若手の先生に押し付けてしまうこともあります。その場合、嫌々顧問となった先生は鬱状態になる可能性もありますし、学校不信にもなります。

欧米では、クラブは保護者の責任で行うもので先生たちは授業に専念するのが当然という国、州もあります。民間のスポーツクラブに委託するのです。現場を知らない教育委員会の存在も果たして必要かどうか、抜本的な議論が必要でしょう。少なくとも教育委員会は生徒たちにも先生たちにも益とはなっていないでしょう。いじめ問題でもしばしば教育委員会が生徒のためにならない判断をしていることが指摘されています。地域の学校出身である教育委員会の委員さんは生徒を守るわけではなく、自分の担当する学校に問題があることは隠したいと考えてしまう可能性があります。政府のいうところの「働き方改革」がこれからどこに向かうのか、どこまで真剣に議論し、制度という形に落としこめるか。私学にはどう対応するのか、注目していきたいものです。とにかく学校教育の主人公が子供たちであるならば、その成長を支える先生たちに人間としての当たり前の労働環境を保証する必要があります。

今回の制度、その予算化は、改革の小さな第一歩。その背後に地道に先生たちの苦しみと努力を知る志のある人々がいらっしゃるのでしょう。頭が下がります。人は問題を第三者的に指摘はしても自ら動く人は少ないのです。

 

元校長 松本 利勝