天使と出会ったときのこと

昔、天使に出会ったことがありました。群馬県高崎市、といっても周りは山ばかりの小高い丘にある「新生会老人ホーム」で。わたしは毎年、夏に有志の中高生を引率してそこで「人間の学校」と称して奉仕プログラムを行っていました。生徒たちが、ホームで暮らす人々との出会いから人間について、自分について学ぶのです。引率する教師たちも一緒に学びます。

 

ある時、そこで天使に出会ってしまいました。その天使はシスター(修道女)の衣装を身にまとっていました。確かに、それはまさに本物のシスターでした。高齢ではありましたが、その輝く笑顔はまさに天使そのもの。彼女のことば。「あなた、よくいらっしゃいましたわね。さぞお疲れだったでしょう。どちらからいらしたのですか。」わたしは、そのあまりの美しい立ち居振る舞いにどこか神聖な思いを抱きました。

 

翌日、その天使様にまたお会いしました。そこにはホームのスタッフが数人常駐しています。キリスト教の精神に基づいている施設なので、シスターがいらしても不思議ではありません。チャペル(施設付属の礼拝堂)もありますし。シスターが私の姿をみつけると、また声をかけてくださいました。

 

「あなた、よくいらっしゃいましたわね。さぞ、お疲れになったでしょう。どちから・・・・」もちろん彼女は輝くばかりの笑顔。その翌日も、同じ言葉でした。その時、天使様を見守るスタッフが私に向かって、微笑みました。そうして悟りました。

 

ひとりのシスターが認知症になり、この施設の利用者となり、やがて我々訪問者を出迎えるようになったのです。かつて、救いを求めて修道院を訪ねて来られた人々とともに祈られたように。

 

認知症になると、たとえその人がどのように高潔な方であっても、時に醜悪な言動をさらすこともあります。しかし、このシスターは、そうではありませんでした。

 

「エンジェルホーム」それがこの施設の名前です。天使が舞い降りる素晴らしい場所です。

 

 

松本利勝

 国家資格キャリアコンサルタント

 産業カウンセラー

 教育カウンセラー